毎月読んだ本についてウェブログの記事を書くノルマを自分に課することにした。 書くことで本の内容を少しでも定着させ、面白い本を誰かに読んでもらえるように紹介できるってわけ。

実用書など

津村紀久子 『苦手から始める作文教室 文章が書けたらいいことはある?』(ちくまQブックス)

ちくまQブックスはちくまプリマー新書よりさらに対象年齢の低いレーベル。小学生から中学生くらいを対象にしているようだ。この本は100ページちょっとで分厚い本に拒否感があるような子でも手に取りやすくしているのだろう(電子書籍で買ったから物理的な厚さは存在しないのだけど)。

この本は作文の指南書だが、学校の作文というよりは自由な内容を楽しみのために書いてみようという趣が強い。最近どんどん長い文章を書くのが苦手になってきたので、何かヒントがないかと手に取ってみた。(著者も小説家・エッセイストを職業にしているが、「作文が年々苦手になってきています」と書いている。同胞!)

第4章メモを取ろうでは書評のための読書メモの例が載っていて、書評のための読書メモは、三中信宏『読書とは何か』にもあったが、こんなに細かくとるものなのか、と感心した。読むことに没頭しがちな自分にはどうも真似できそうにない。

さて、作文(文章)の書き方についてだが、本を読んでもすぐには苦手意識が取れそうにはない。書き出しの作り方については本書の内容を真似してみれば、そのうちよい書き出しが書けそうな気がしてきたので、得るものはあったみたいだ。

文章、何を書けばいいんだろう?となりがちな人はちょっと手に取ってみてもいいかもしれない。

苫野一徳 『未来のきみを変える読書術 なぜ本を読むのか』(ちくまQブックス)

ちくまQブックスからもう一冊。こちらは読書とその方法について。この本の筆者が作っているレジュメ(読書ノート)がものすごく、作り方としては引用の見出しをつけて本文の構造を明らかにする、というものだけど、3〜5万字、時には10万字もの読書レジュメを作るというのだから驚かされる。(普通の新書だと数千字で終わることもあるとは書かれているけれども)

やはりこれもなかなか真似ができそうにないなと思ったが、重要な本についてはしっかりとしたノートを取りたいものだ。いまは読書のノートとしては抜書き帳くらいしか作っていないし…。

五藤隆介 『アトミック・リーディング 読むことと書くことから考える読書術』

この本ではツェッテルカステン流に読んだものを自分の言葉でまとめる読書メモの作り方を勧める。またその内容をアトミックに、つまり、最小の形にしたメモに分解するという。抜き書きを集めるのがすきな私にとって自分の言葉で書き直せというのはなかなか難しい注文だ。まあこのブログの文章は読んだ本の内容を自分の言葉でまとめていると言えるかも知れない。

並行読書を勧めているのも面白い。何冊かを同時に読み進めることで、各書籍の接触時間が増えるのがいいらしい。なるほど、これは試してみてもいいかな。kindle unlimitedに入っているのであればおすすめ。

歴史・民族学

小田中直樹 『歴史学ってなんだ?』(PHP新書)

歴史学についてどういった営みなのか、史学史を踏まえてわかりやすい語り口で説明する本。とても読みやすいが内容がいいので、同著者の『歴史学のトリセツ』も読んでみようと思った。2006年の本だったので史学科一年生の時に読んでおけば、いいウォーミングアップになったのではないだろうか。

しかし血気盛んな大学新入生は分厚い専門書を好むものなのだ。

齋藤希史『漢文脈と近代日本』(角川ソフィア文庫)

漢文や訓読体のことばが近代日本の文学や思想にどのような影響を与えたか、そして漢文脈以降の日本の文学は、ということを論じた本。文体と思想の関係という視点がなかったので興味深かった。読んでいてどっちかというと近代の前段である近世の漢文の学びについてもっと知りたく感じた。

辻本雅史 『江戸の学びと思想家たち』(岩波新書)

『漢文脈〜』で近代より近世日本の漢文との関わりだ、と思ったので手に取った。江戸時代の思想家たちにどのような学習の経歴があり、どのように知を共有していったかといったことがメディアという視点で述べられている。

江戸時代の思想家…本居宣長と荻生徂徠くらいはわかるかな、くらいのレベルだが楽しく読めた。江戸の思想家に興味があれば入門にもおすすめ。

桑木野幸司 『記憶術全史 ムネモシュネの饗宴』(講談社選書メチエ)

記憶術、頭の中に建物を作って覚えたいもののイメージを配置するアレ、の発展と衰退までを当時のマニュアル本を読みつつ解説した内容の本。メディアが発展し情報が増えるにつれ記憶するのではなく整理することにシフトしていき、一時は大人気だった記憶術が廃れていくのであった…ということで、記憶術後の知のあり方の方が興味あるなと思った。どうやら私はすぐに本題じゃないところが気になってしまうらしい。

『台湾で日本人を祀る 鬼から神への現代人類学』(慶應義塾大学東アジア研究所叢書)

戦死した熊本の男性が台湾で神様に 80年ぶりの再会の旅 男性の息子の台湾訪問に密着(リンク切れ)というニュース記事を見て、そういや台湾で日本人が祀られてるってどこかで読んだ記憶があったな、と思い出し図書館で借りてきた。

元々非業の死を遂げた魂が祟りを起こすので祀るという信仰があり、このように祀られた神は下級神なので主な神には相談できない宝くじのあたり番号を聞くのが流行った1980年代には多くの人がお参りに来ていたらしい。われわれが日本人であるがゆえに日本人が祀られていると特殊性を感じていたのだと分かった。ただ、最初に貼ったニュースの台湾・高雄の保安堂ではその性質を利用して、台日交流や観光の場としても活用されているそうで面白く感じた。

また、市街地を避けて墜落した第二次世界大戦時の戦闘機の言い伝えが複数残っているのに興味が湧いた。

日本-台湾関係や、台湾の信仰に興味があればおすすめ。

小説

柴田勝家 『ヒト夜の永い夢』(ハヤカワ文庫JA)

博物学者南方熊楠を主人公に、実在の科学者文学者政治家実業家天皇革命家軍人が活躍する粘菌機関SF。敵役があの人で、最後の決戦の舞台があの出来事だったのですごく熱かったがネタバレしたら面白くないのであんまり書けない。昭和初期が舞台のSFに惹かれるものがあれば是非!